馬路村の『履歴書』—山に守られ、外に心を結ぶ村

山に守られ、外に心を結ぶ村

馬路村は、高知県東部に位置し、四方を標高1000メートル級の山々に囲まれた深い山の中にある、静かな村です。豊かな森林に恵まれ、清らかな川が流れ、古くからこの地に根を張る人々は、木を伐り、運び、自然の恵みとともに暮らしてきました。

険しい地形に守られていたため、外からの脅威が少なく、争いや奪い合いとは無縁に近い場所でした。一方で、村の人々は世の流れとつながりを絶つことなく、よその求めに耳を澄ませ、それに応えることで、自分たちの暮らしを成り立たせてきたのです。

とくに林業においては、村の森から得た木材を外へと届けながら、結び合いし仲として、外とのつながりを大切にしてきました。ただ、その発展の多くは、あくまでも村の内にある資源に依っていたため、外との広がりを通じた商業的な展開は限られていたとも言えるでしょう。

馬路村の人々は、他に頼らず、自分たちの力で道を切り拓いていくことを大切にしてきました。
そのため、村の成り立ちには、内に根ざし、外とつながるという、どこか矛盾しながらも美しい調和が息づいています。

この村は、よその望みに応えながらも、すべてを自分たちの手で行おうとする意思を持ち続けてきた――まさに、静かなる誇りと歩みを重ねる「結びの里」と言えるのではないでしょうか。

自然に育まれた暮らしと、ひらかれた心

馬路村は、外からの脅威を受けにくい地形と、豊かな森林資源に恵まれた環境のもと、独自の暮らしを築いてきました。村の人々は、自分たちの持つ資源や知恵を活かし、自ら考え、自ら動く「自己解決型」の姿勢を大切にしています。

一方で、外の世界に対しては、閉ざすのではなく、柔らかくひらかれた関係を築いてきました。外に頼ることは少なくとも、外の声に耳を傾け、そこに応えることで、自分たちの未来を形づくってきたのです。

このような柔軟で開放的な姿勢は、地理的な隔絶と、長い歴史の中で外圧が少なかったことにより、自然と育まれてきた馬路村ならではの“村の気風”と言えるでしょう。

村の手で育てた、未来を結ぶ力

馬路村はかつて、森林資源を活かした木材の輸出で栄えてきました。しかし時代の流れとともに、独自の歴史や風土を活かし、ユズの栽培と加工業へと舵を切りました。

ユズはもともと地元の食文化に根付いたもので、ちらし寿司などの家庭料理にも欠かせない存在です。このなじみ深い作物を、村は新たな産業の柱として育て上げました。

村は外部に頼らず、内部の資源と知恵を活かしてユズブランドを築き上げました。その背景には、「自分たちで何とかする」という自己解決型の精神が深く根付いています。

自ら考え、自ら動く村

馬路村では、ユズの栽培から加工・製造・販売に至るまで、すべてを村の中で完結させる仕組みをつくりました。
この“完結型の仕組み”が、高付加価値の商品を生み出し、全国的に知られるブランドへと成長を遂げたのです。
結果として、林業からユズ産業への転換は大きな成功を収め、地域活性化にもつながりました。

先頭に立つ者——村の精神を導く力

この成功には、村の文化に根ざしたリーダーの存在も欠かせません。
村の精神を理解し、自ら先頭に立って転換を進めたリーダーがいたからこそ、林業からユズへの移行は現実のものとなり、村の経済も立て直されました。

山に根ざし、世にささやく村の声

さらに馬路村には、長年の林業を通じて培われた外部への発信力という強みもあります。
かつて木材を外に出していた経験は、ユズ製品の販売にも生かされました。
村内で作られたユズ商品は、全国の市場や百貨店へと広がり、村の名前とともにその価値を伝えています。
こうした発信力により、馬路村は独自性を守りながら、広い市場で成功を収めることができたのです。

馬路村が歩んだ、小さな再生の道しるべ

森の恵みに手を添えて——技と知の歩み

森林資源やユズといった地域の恵みを活かし、馬路村は高付加価値の商品づくりを進めてきました。「Yuzu no Mura」や「ごっくん馬路村」といった商品名には、村の外に向けたPR力の高さが表れています。近年では、ユズを活用した化粧品や健康食品の開発にも取り組み、新たな産業の芽が育ちつつあります。こうした技術革新と商品展開を通じて、村は「柚子の村」としてのブランドを確立し、その魅力を外部へと発信しています。

育て、つくり、届ける村の仕組み

馬路村では、ユズの生産・加工・販売をすべて村の中で行う「6次産業化」にいち早く取り組んできました。この仕組みにより、村は高い付加価値を生み出し、安定した地域産業を築くことができました。外部に頼らず、自分たちの力で商品づくりから販売までを完結させる姿勢は、馬路村らしい“自己解決型”の特徴をよく表しています。

結びの村に吹く、新しき息吹

馬路村は、「自分たちの力でなんとかする」という考え方を大切にしてきました。
その一方で、外からの力を上手に取り入れ、働く人を確保したり、新しいビジネスのきっかけを作ったりする取り組みも進めています。
とくにワーキングホリデーやユズのPR活動を通じて、外部の若者たちを村に迎え入れ、村づくりに関わってもらうしくみが整えられてきました。

村の中では「若者座談会」も開かれ、村の内外の若い人たちが交流する場が広がっています。
こうした活動を通じて、外から来た若い力が村に新しい風を吹き込み、未来をともに考える動きが少しずつ育まれています。
ユズ製品の販売や発信も、若者たちの協力によってさらに活気づき、村のブランド力を高める力になっています。

村の力と可能性を読み解く(SWOT分析)

強み (Strengths)

  • 村民の結束力と「自分たちで解決する」という強い精神
  • 「ごっくん馬路村」など、ユズ産業の全国的ブランド化
  • 林業で培った外部発信力とマーケティングの実績

弱み (Weaknesses)

  • 外部のアイデアや支援を柔軟に取り入れる力の不足
  • 人口減少と高齢化による地域の持続性への影響
  • 都市部からのアクセスの悪さによる流通・交流の制限

機会 (Opportunities)

  • 外部との連携による新産業・アイデアの取り込み
  • 国内外でのユズ需要の高まりと新市場の開拓
  • オーガニックや健康志向に沿った商品展開

脅威 (Threats)

  • 気候変動による霜害や台風など農業への打撃
  • 他地域によるユズブランドの競争激化
  • 内部資源への依存による対応力の限界

まとめ:結束と発信力が生んだ地域活性化の成功

馬路村は、ユズ産業を軸にした地域づくりを通じて、持続可能な活性化を実現してきました。この成功の背景には、次のような要素があります。

  • 村の結束力: 林業からユズ産業への転換を村全体で支え合い、「自分たちで何とかする」という精神が、強固な地域の基盤を築きました。
  • ユズ産業の展開: 慣れ親しんだ作物を活かし、商品開発と付加価値の向上に取り組んだことで、新たな市場を切り開きました。
  • 外部への発信力: 林業で培った対外的な発信力をユズ製品にも応用し、地域ブランドの構築に成功しました。

これらの「内なる力」と「外への発信」がうまくかみ合ったことで、馬路村は独自の道を切り拓き、今もなお進化を続けています。